■整備事業経営対策WG会議における自動車整備事業活性化方策
<事例 ~14~>
大阪府自動車整備商工組合
<地域における事業者間連携による自律的取組に係る支援>活用事例
取材日:令和6年9月8日(日)
<地域における事業者間連携による自律的取組に係る支援>活用事例
株式会社片山モータース 大感謝祭
整商連では、「自動車整備事業の活性化方策」事例として、地元企業と連携して開催したイベント等を通じて、地域に貢献している大阪府枚方市内の企業「株式会社片山モータース」を取材した。
↑1963年創業の株式会社片山モータース
↑社長の片山様
◆大感謝祭開催までの経緯、目的
所在地である長尾地区には、50年以上続く企業がいくつかあり、どの企業も老舗ではあるものの、地域の若いお客様の新規開拓が思うようにいかない状態で、打開策を模索していた。片山モータースもまた、同じ状況にあり、頭を抱えていた。
2012年、自身が29歳の時に、先代がなくなったことをきっかけに、現職に就任された片山社長。就任されたタイミングと事業50周年が重なったため、なにかイベントをしたい、と考え始めたそう。
大感謝祭を開催するにあたって、長尾地区の米穀店に商品を依頼したことがきっかけで、米穀店の社長とつながりができ、「なにかみんなでおもしろいことをしよう」と集まり始めたという。
以前にも感謝祭と銘打ったイベントは開催していたが、その内容は粗品の進呈といった程度のものであった。
まず会社の存在を知ってもらい、敷地に足を踏み入れてもらうことが、新規顧客の開拓きっかけのひとつになるのでは、と考え、将来的にお客様になる地域の子供たち、その子供たちを抱える若い親世代との触れ合いの場を設けるべく、誰でも来場でき、こどもも安心して楽しめる夏祭り形式のイベントを実施した。
こどもとその親をターゲットにしているため、開催日程は、地域の小学校の運動会や行事日を確認の上、決定し、チラシ配りやSNS、地域企業の協力で開催を宣伝している。
この社長のアイデアは的中し、長年続く地域に根付く感謝祭となった。
↑今年のチラシ
↑2018のチラシ、手作りのやさしいデザイン
◆感謝祭の当日のようす
開始時刻の前から多くのお客様が来場されており、期待度の高さがうかがえた。来場者に話をきくと、前年度も来たという方がとても多く、また口コミで知った方も多く、このイベントが地域に定着していると感じた。
出店は、近隣企業によるドリンクやフランクフルト、かき氷などの夏祭りにかかせない飲食店のほか、こどもと大人が一緒に楽しめるパターゴルフや射的、スライムづくりなどをそろえる。価格はいずれも50円から100円程度。近年の夏祭り等における単価の高さは、こどもたちが楽しめないのではないかと考える社長らしい価格設定だ。
感謝祭における目玉イベントのひとつが「車に落書き」で、これを目当てに来場するお客様も少なくない。
その他にも、商品購入ごとにたまるポイントで参加できるガラガラ抽選会も。大人もうれしい景品が盛りだくさんだった。

◆感謝祭の効果
初回に感謝祭を開催して以降、「感謝祭がとてもたのしかった」「次はいつ感謝祭をやるの」と声をかけてくる顧客も多く、実際に整備や新車購入でも、来店が増えたそうで、効果の高さがうかがえる。
また、長尾地区の地域のお祭りとして、若い親世代を中心にすでに根付いており、毎年期待して来場するこどもたちも非常に多いことから、このこどもたちが、今後10年、20年後に再び来店し、点検・整備や車の購入に使用してほしいと、長い目での効果を期待する。
◆部活動のスポンサーとして、地域に貢献
感謝祭が始まって、数時間経った頃、ユニフォームを着た長尾高校サッカー部の生徒たちが、感謝祭のお手伝いに集まった。
片山モータース様は、このサッカー部の生徒が所属する、地域のクラブ「NAGAO SOCCER SCHOOL(ナガオサッカ-スクール)」のスポンサーとなっている。
現在、少子化や教員の働き方改革の影響から部活動は地域移行が議論されており、安全上の不安や指導者の確保、そして生徒、保護者の金銭的負担の問題が懸念されている。長尾高校サッカー部は、この状況を見据え、部活動の資金を地元企業からのスポンサー収入で賄う取り組みを構築。日々の活動をSNSで発信し、練習試合で企業ロゴ入れのユニフォームを着るなどし、地域企業をアピールしている。
この取り組みにより、子供たちが安心して部活動ができ、地域企業は活性化されるシナジーが生まれた。
今回の感謝祭では、より広い地域のひとに来てほしいという思いから、サッカー部の生徒に広範囲にチラシ配り、ポスティングを依頼。その効果もあって、来客の中には、チラシが入っていたので来たという親子も多かった。
◆地域連携について
感謝祭の出店企業の多くは、地元長尾地区の地域企業。楽しく働き、そのうえで業績をあげたいという共通の信念で集った企業同士の連携で、様々なイベントを主催し、地域を盛り上げている。

主にイベントは地元である枚方市内を中心に、神社やショッピングモール、時には高校などで開催。これにより、地域の企業同士によるつながりがより強くなった。そうしてできた信用を使い合う、Win-Winの関係性が根付いていった。実際に、顧客を紹介しあうなど、業績にもいい影響がでているそう。

ある会社がイベントをやりたい、といえば業種問わず出店する。本来の業種とはまったく関連のない出店もするようで(片山モータース様では焼き芋をしたこともあるそう)、その一番の目的は、来場者に名前、顔を売ることと考えているからこそ。自分たちも楽しんで参加しつつ、最終的には企業アピールをめざす。
とある企業で開催したくじびき大会では、景品として「オイル交換無料券」を出品したそうで、回収率も好調だそう。

「同業、他業問わず、助け合いながら会社を大きくしていかないと、これからの時代は生き残れない。同業であれば、お互いの得意分野でフォローしあったり、足りない特殊工具(SST)があれば貸し借りしたりもします。そうしていろんな仲間と楽しく仕事をし、おもしろいことには協力して取り組み続けたい」と片山社長は話す。
◆取材を終えて
整備工場に足を踏み入れることは、普段味わえない体験だ。この体験がきっかけとなり、こどもにとって親しみをもってもらえれば、大人になってからの新中古車購入や点検・整備などのあらゆるタイミングにおいて、必ずその会社が思い浮かぶことになろう。長期的なスパンで経営を考えている点で非常に感心するとともに、近年の苦戦する人材獲得の観点でも、解消の糸口になり得ると感じた。
また、日本全国には、創業から長く事業を続けているものの、地域に新しく引っ越してきた方や若い世代を、新規の顧客として定着させられずに悩んでいる事業者はとても多いと聞く。現状脱却を目指す中小企業にとって、同じ悩みを抱える地域企業との前向きな連携は、非常に大きな原動力になり、お互いの得意分野を生かした同業者との連携は、めまぐるしく進化する新技術への対応にも、大きな武器になると感じた。